竹の特性
バンブーロッドの独特のフィーリングは(1)、(2)の材料の特性に拠るところが多々ありますので参考にしてください
(1)ロッド負荷と撓みの関係
フライロッド用の素材として、古くから用いられている”竹”がある面では、近代的な化学的材料より優れた特性を持っています。
*変位、モーメントともに、いずれも最大値との比であらわしています。
図1.加重負荷(曲げモーメント)と変位量の関係
この図は竹とカーボンの撓み特性を測定したものですが、フライロッド用素材としての竹の優れた特徴を示している図です。
両者の特徴がよく判るように、変位、モーメント共に各々最大値との比で目盛りを目盛っています。
現在主流のカーボンロッドは、図に示されるようにロッドに加わる負荷(曲げモーメント)に対して比例的に撓みますが、竹は図に示されているように、負荷が大きくなるに従って曲がり難く(強く)なっている事が示されています。(いわゆる、腰が強いと言われるところです。)
これは、弾性係数*が負荷によって変化する(軽負荷では弾性係数が小さく、高負荷になると弾性係数が大きくなる)ことを表しています。
この特性によって、キャスティング距離が近距離の場合はロッド負荷が少ない為、弾性係数は小さく、即ちロッドは柔らかく働きます。遠距離のキャストではロッド負荷が大きくなり、弾性係数が大きく、即ちロッドロッドがより硬く働き、ロングキャストが可能になると言う理想的な特性が実現されることになります。
又、この特性により使用可能ライン番手も広くなることになります。(本ロッドでは4,5種類の番手を指定しています。)
*弾性係数:素材の柔軟性を表す物理定数
(2)竹の曲がり(ヘタリ、癖)について
和竿を使用する方などからも”竹は癖が出やすい、ヘタリ易い”などの言葉を良く耳にしますが多少の誤解もあるようですので、もう一つの重要な竹(天然素材)の特性を説明いたします。
図2.竹のヒステリシス特性
図2.は一般的な天然素材(木材、竹など)のヒステリシス特性と言われる特徴を示しています。
無負荷の状態の位置を原点(0点)とし、徐々に加重を加え(図中”1”の方向)、ある時点から徐々に加重を抜いてゆく(図中”2”の方向)と加重をゼロとしても元の位置(原点)に戻りません。
さらに図中3、4の方向に最初と逆方向に徐々に加重を加え、抜いてゆくと原点では最初の位置に戻らないで曲がった状態になります。さらに図中5の方向にゆっくり加重してゆき、最初の最大加重点からまた、徐々に加重を抜いてゆくと最初と同様に図中2の線上を移動して元に戻ります。
すなわち、同じ加重を正方向、逆方向に加えたり、抜いたりすると図中2、3、4、5のようにループ状に撓み量が移動します。この特性を”ヒステリシス特性”と呼んでいます。
この結果、大型魚を釣り、大きく竿を曲げたまま長い間保持すると、図2のヒステリシス特性により元の状態に戻らず少し曲がりが出ます。
これは素材特有の特性であり、いわゆる材料の疲労による”ヘタリ”(弾性係数の低下)とは異なります。
カーボン、グラスファイバーなどの工業材料などはヒステリシス特性が小さく開発されている為、ほとんど目立たないだけです。
この為に、竹竿は”ヘタリ、癖が出やすい”などと誤解され易く、”扱いにくい”イメージを持つ方もいるように思えますが全くの誤解と言っても良いかと思います。
特に”多少の曲り”についてはキャスティング上はほとんど関係なく、気分的な問題とも言えますが,気になる方は修正することも簡単です。(専門家に依頼する又は、ドライヤーなどで簡単に修正できます。ちなみに、カーボン、グラスロッドでも曲がっているブランクもあります)
この特性は決して利点とは言えませんが天然素材である限りは避けられない特性と言えます。特に曲がることによってロッドに蓄えられたエネルギーがロスする為、遠投力には損失となります。
そのため素材を”火入れ”し、ヒステリシス量を出来るだけ少なくするわけです。(”ハリ”がでると言う表現はヒステリシス量が小さくなる事も含まれています)
図3.振動によるヒステリシスの減少
図3は竹が振動することにより元の位置(原点)に戻る様子を表しています。基本的にヒステリシス特性は繰返し振動しながら収束すると原点(元の位置、ゼロ位置)に戻ります。
すなわち、2→3→4→5→6→7→8→9の順に原点を中心に振動することによって元の位置に戻る事になります。
つまり、通常のフォルス・キャストでは振動状態で使用するため、曲りが発生することは無い事になります。
又、中空ロッドでも中実(ソリッド)ロッドでもこのような特性は同様で特に違いはありません。
逆に、中空ロッドはヒステリシスの少ない表面部分を利用すため、中実(ソリッド)ロッドより少しは有利かもしれません。
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